親が亡くなった、もしくは施設に入ったあとに残された空き家をどうするか——。
こうした実家の片づけや処分、いわゆる「実家じまい」に直面する人が増えています。ただ、気軽に進められるものではなく、想像以上にお金も手間もかかるのが現実です。
特に費用面で悩む人は少なくありません。しかし実は、国や自治体が用意している補助金制度を上手に使えば、負担を軽くできる可能性があります。この記事では、実家じまいに使える代表的な補助金や、その調べ方、注意点まで詳しく解説します。
実家じまいにかかる主な費用とは?
まずは実家じまいの際にどんな費用が発生するのかを把握しておくことが重要です。費用は内容によって大きく変わりますが、主に以下のような出費が想定されます。
実家じまいにかかる費用
まずは実家じまいの際にどんな費用が発生するのかを把握しておくことが重要です。費用は内容によって大きく変わりますが、主に以下のような出費が想定されます。
- 不用品や家財の処分費用:約20万〜50万円
- 建物の解体費用:約100万〜300万円
- 不動産の名義変更や売却に伴う諸費用:年間数万円〜
- 空き家管理(放置した場合)の維持コスト:年間20万円~
例えば、家一軒分の片づけだけでも20万円〜50万円程度かかることが多く、解体費用は最低でも100万円以上かかりますし、構造や面積によっては200万円を超えるケースも珍しくありません。これに加えて、不動産の名義変更の登記費用や仲介手数料なども発生するため、想像以上に負担が大きいのです。
決して安くはないこの負担を軽くするために、自治体や国の補助金制度を活用するのが賢い選択です。
実家じまいに使える主な補助金・助成制度
では、こうした費用を抑えるために活用できる補助金にはどのようなものがあるのでしょうか?全国共通の制度ではありませんが、多くの自治体が以下のような補助制度を設けています。
空き家除却補助金(解体費用の補助)
老朽化した空き家を解体する際に使える補助金で、多くの市区町村で導入されています。対象となる建物には条件があり、「築30年以上」「空き家になって5年以上経過している」「倒壊の危険性がある」などの基準を設けている自治体が一般的です。
支給額は自治体によって異なりますが、以下が目安です。
- 補助率:費用の1/2程度
- 補助金額:上限50万円〜100万円程度
申請には事前の見積書や写真、所有者確認書類などが必要で、申請前に工事を始めてしまうと補助の対象外となることもあります。
空き家活用・リフォーム補助
解体工事をするだけでも最低でも100万円、坪数や建物構造によっては200万円以上かかることも普通です。
したがって、多くの方はまず解体以外の方法で実家じまいを模索します。
解体ではなく空き家を再活用する場合には、リフォームや修繕費用に対する補助金が出ることもあります。特に「空き家バンク」に登録して売却・賃貸を目指す場合、補助対象となりやすい傾向があります。
また、移住促進の一環として空き家購入者に補助を出す自治体もあるため、活用の意向がある場合は自治体に確認する価値があります。
国のモデル事業による支援
国土交通省が推進する「老朽危険空き家対策モデル事業」は、対象自治体において国が支援する制度です。自治体を通じて申請し、補助金の交付を受けられるケースもあります。
この制度は比較的新しいため、実施しているかどうかは市区町村のサイトまたは窓口での確認が必要です。
補助金を受けるための注意点と手続きの流れ
補助金制度はありがたいものですが、注意すべき点も多くあります。特に大事なのは「事前申請が必須」というルールです。たとえば申請前に実家の解体工事を始めてしまうと、ほとんどのケースで補助対象外となってしまいます。
また、補助金の申請にあたっては、以下のような書類が必要になることが一般的です。
- 建物の登記簿謄本または固定資産税課税明細書
- 所有者の本人確認書類
- 解体業者の見積書および施工計画書
- 現地の写真や空き家状態を証明する資料
手続きの流れも自治体によって異なりますが、問い合わせ→現地調査→申請書提出→審査→交付決定→工事開始、というのが一般的なフローです。補助金の交付までには1〜2ヶ月程度かかることもあるため、時間に余裕を持って動く必要があります。
補助金だけに頼らず「実家の売却」も検討すべき理由
補助金があるとはいえ、すべての費用がカバーされるわけではありません。そこで現実的な選択肢として浮上するのが「土地や建物の売却」です。特に近年は、空き家を買い取りたいという業者や個人も増えており、条件次第では思わぬ金額で売れることもあります。
古家を購入してリノベーションし、そこに住むというのは外国人人気が高まっています。たとえば欧州などでは、築100年以上の建物に住むのは普通で、「古い家だから壊さないといけない」という概念がないことも理由です。不動産投資家の間でも、古い戸建てを購入して投資物件にリフォームする方も増えています。
ですから、古い家にも価値がつくことがあるのです。
また、実家を売却すれば固定資産税や維持費の悩みからも解放されます。空き家をそのまま放置すると、住宅用地の特例(固定資産税の軽減措置)が外れて、税金が高額になるケースもあるため、早めの決断が肝心ですね。
売却を最優先で進めるうえでも、まずは以下の無料サービスで実家のいくらの値がつくのか概算価格を把握しましょう。
自治体ごとの補助金制度の調べ方
補助制度は自治体によって内容が大きく異なるため、実家のある市区町村の公式サイトを確認するのが最も確実な方法です。「◯◯市 空き家 補助金」などのキーワードで検索すると、関連ページが出てくることが多いでしょう。
注意点としては、年度はじめに内容が更新されることです。
「この補助金は申し込もう」と思っていても、来年度になったら内容が変わり、使えなくなるということもあります。
ですから、最新内容は自治体のホームページで確認してください。また、直接電話で「実家じまいを考えていて、使える補助金があるか知りたい」と伝えれば、該当の担当課に案内してもらえることがほとんどです。
実家じまいの手順と心構え
心構えについても最後に紹介しておきます。
実家じまいは数日で終わるようなものではありません。長ければ5~10年かけて実家じまいをする方もいるので、実家じまいは根気よく取り掛かる必要のある、骨の折れる作業だと言っても決して過言ではありません。
具体的には、以下のような作業が含まれます。
- 家財道具の整理・処分(遺品整理)
- 不動産の売却・賃貸の検討
- 近隣住民への挨拶
- 家屋の解体の検討
- 実家の名義変更手続き
- その他各種手続き
したがって、実家じまいを始めるにあたっては、しっかりと手順や必要な内容を把握し、かかる費用を安く抑える工夫も必要になるでしょう。
実家じまいを始める前に、まずは以下の点を整理しておきましょう。
- 実家をどうするか: 売却するのか、賃貸するのか、解体するのか
- 誰が責任者になるのか: 家族間で役割分担を明確にする
- 予算はどれくらいか: 費用を抑えるポイントも事前に確認
- スケジュール: どのくらいの期間で進めたいか
実家じまいの手順
実家じまいのおおまかな手順は以下のとおりです。
1.家族で話し合い
実家じまいの必要性や目的について、家族全員で話し合い、共通認識を持つことが重要です。
誰がどの役割を担うのか、スケジュールや費用についても話し合っておきましょう。
2.家財道具の整理・処分
実家を売却するにしろ、解体するにしろ、ご両親の遺品が溢れている状態では前に進むことができません。
ですから、実家の中の不要なものは処分し、必要なものは家族で分配する必要があります。
実家の売却の方向で進め、買い手が見つかった場合、もしかしたらその方が「早く住みたい」と申し出てくるかもしれません。
そうなった場合、仕事が休みの日に時間を割いて遺品整理や家財道具の処分をするのは、肉体的にも精神的にも重労働です。
実家が田舎など、遠方にある場合は往復の移動だけでも大変でしょう。
実家を解体することになった場合でも、残したいもの、処分して良いものを判別しておく必要があります。
家財道具をはじめとした遺品などの残置物を、解体業者にまとめて処分依頼することもできます。
しかしその場合、解体費用が数十万円~100万円ほど値上がりしてしまうことは珍しくありません。解体業者の手間と労力が余分にかかるからです。
ご両親が物を捨てられずに取っておく性格だった場合、遺品整理は大変な作業になりがちですから、実家じまいを決断した時から少しずつ進めることおすすめします。
また、実家のある地域のゴミ出しルールは、ご自身がお住まいの地域とは異なる可能性が高く、市区町村専用のごみ袋が必要な地域も多いのでゴミの整理と処分には注意しましょう。
自分達だけでは遺品整理が難しい場合は、プロの業者に一任することも可能です。
遺品整理業者は玉石混交ですが、以下のライフリセットなどは他社で断られた物件でも対応してくれますので、必要な方は問いあわせてみて下さい。
3.不動産や預貯金など財産の査定
実家にある財産をリストアップし、それぞれの価値を把握する必要があります。
預貯金に関しては銀行口座をチェックします。
不動産(家と土地)は不動産業者に査定してもらい、実家の売却・賃貸・解体の判断をします。
いきなり不動産業者に来られて営業されることに抵抗がある場合は、イエウールなどの無料査定サイトを利用しましょう。
売却・賃貸・解体の3通りの出口の中から、実家じまいでまず考える方が多いのは売却でしょう。実際9割以上の方が実家売却を選択します。
築年数がそれなりに経っている実家や、地方の交通アクセスの悪い地域にある実家の場合、数か月も売れないことは多々あるかもしれません。
それでもやはり売却を最優先で考えるべきで、売り出す諸条件を見直したり、相談する不動産業者を変更するなどして辛抱強く継続すべきでしょう。
その理由は先に紹介した通り、実家を解体するだけでも数百万円の費用がかかるからです。
「壊すだけなので数十万円程度で済むのではないか?」と、解体費用を低く見積もっている方は少なくありません。
しかし、最も解体費用の安い30坪程度の木造住宅を壊すだけでも、最低でも150万円程度かかります。
解体費用相場 | 木造 | 鉄骨造 | RC造 |
30坪 | 120~150万円 | 150~200万円 | 180~250万円 |
40坪 | 140~200万円 | 200~280万円 | 250~350万円 |
50坪 | 200~300万円 | 240~320万円 | 260~380万円 |
空き家の解体費用が捻出できず、日本各地で誰も住まなくなった空き家が放置され、社会現象にまでなっているのにはこのような背景があるのです。
また、実家を損することなく売却するためには、まずは空き家となっている実家の現在価値を正しく知る必要があります。
イエウールなどの無料査定サイトでまずは概算を把握しましょう。
4.買主・借主の募集
実家の現在価値を把握できたら、買主・借主の募集を行います。
実家がある地元の不動産業者に自分で依頼するか、イエウールを利用すれば希望者には地域の不動産業者も紹介して貰えます。
実家を最も高額で売ってくれる業者や、親身になって相談に乗ってくれる担当者に依頼し、買主・借主の募集を行って貰いましょう。
5.売買契約・賃貸借契約
実家の買主・借主が見つかったら、不動産業者立ち会いのもと契約を交わします。
売却するのであれば売買契約、賃貸として貸し出すのであれば賃貸借契約を結びます。
賃貸のニーズは都心なら比較的ニーズはあるのですが、実際は実家を賃貸に出す方はほとんどおらず、ほとんどの方が売却を選択しています。
不動産業者に仲介をお願いして借主が決まれば家賃収入が得られるので、確かに魅力的かもしれません。
しかし、賃貸経営は事業ですから、手間もかかりますし、リスクを背負うことになるから多くの方は賃貸を選ばないのです。
通常、何年もご両親が住んでいた実家は貸し出す際はリフォームを行う必要があります。
外壁塗装、水回り設備の交換、フローリング材の交換、外構工事など、数百万円単位でリフォーム費用がかかります。
初期投資に数百万円かかるわけですから、たとえ毎月の家賃収入が得られるとして、初期投資ぶんを回収できるのは数年先になってしまうわけです。
また、賃貸経営を始めても、給湯器が壊れたり、雨漏りするようになるなどのトラブルは高確率で起こります。
そのような際には貸主責任で修理しないといけないと法律で決まっていますので、想定外の出費がかさめば、マイナスになってしまうリスクがあるのです。
このような理由をから、実家じまいをする方の大半は売却を選択しています。
6.実家の名義変更
まだ行っていない場合は、実家の名義を相続人に変更します。
相続が発生した場合、つまりご両親が亡くなった場合、不動産(家や土地など)の名義変更は自動的には行われません。
相続人が不動産を相続するには、いくつかの手続きを経る必要があります。
実家の名義変更に関する主な手続きは以下の通りです。
相続人の確定
まず、誰が相続人であるかを確定する必要があります。法定相続人は、故人の配偶者、子ども、親、兄弟姉妹など、民法に基づいて定められています。
遺産分割協議
相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決定します。
この協議は全員の合意が必要で、合意に至らない場合は家庭裁判所に申し立てて裁判所の決定を仰ぐことになります。
相続登記の申請
不動産を相続することが決まったら、法務局に相続登記の申請を行います。
この手続きには、遺産分割協議書、相続人の戸籍謄本や住民票などの書類が必要です。また、登記費用も発生します。
令和7年現在、相続登記(実家の名義変更)は、相続が発生してから3年以内に行うのが新たに義務付けられています。
相続人が相続した事実を知っているにも関わらず相続登記を怠ると、10万円以下の過料を取られます。
ただし、登記を怠ると、将来的に実家の売却や贈与、担保設定などの際に問題が生じる可能性があります。
相続には複雑な法律が関わるため、不明点や手続きに不安がある場合は、専門家(弁護士や司法書士など)のアドバイスを受けることをおすすめします。
7.その他各種手続き
実家を処分する場合は、住民票の転出届や固定資産税の申告なども行います。
電気・ガス・水道などの名義変更も行います。
なお、ガスについては実家に誰も住まなくなった段階で早々に解約しておくべきでしょう。
電気や水道は、掃除をする際に使えないと困ることになりますので、そのままにして基本料金だけ払い続けるのが普通です。
実家じまいの費用と流れ まとめ
実家じまいは、費用的にも心理的にも負担が大きいものです。しかし、国や自治体の補助金制度を活用することで、そのハードルを下げることができます。
ただし制度には条件や手続きの期限があるため、思い立ったときにすぐ調べて、まずは市区町村に問い合わせることが第一歩です。片付け、解体、売却などの選択肢の中で、自分たちにとってベストな方法を見つけるためにも、補助制度の存在をしっかり活用していきましょう。
実家じまいは時間や費用だけでなく、精神的な負担もかかる作業です。スムーズに進めるためには、事前にしっかりと準備しておくことが重要ですね。
この記事が、実家じまいを成功させるための参考になれば幸いです。

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